介護事業者による自主的な体制づくり

 

自己完結できる体制がないと迅速な行動はできない

 

岡山県倉敷市にある医療法人福寿会の理事長を務める秋山正史氏。自院の在宅支援診療所で高齢者を中心に診療を行うとともに、老人保健施設の運営など介護サービスも行い、地域医療に携わっている。

 

秋山さんは、2011年5月岡山県長寿社会課が実施した『介護職員等の派遣』に参加し、岩手県陸前高田市・大槌町の老人保健施設で、高齢者の方々に医療介護サービスを提供するとともに、現地職員の方が自分の生活を再建できるよう少しでも休んでもらうべく活動した。

 

秋山さんは小学生の時に病気で実父を亡くした。その時の想いから、「一人でも病気の人を治したい」と医療の道を志した。医師免許取得後は大学病院に勤め、先端医療の臨床研究を行っていた。地域医療に関わろうと思ったきっかけは、大学病院在任中の米国留学だったという。米国で世界の最先端を走る研究者と一緒に仕事をし研究の奥深さを知るとともに、人と接することから離れて行く寂しさを感じた。「残りの人生で社会に対して何ができるかと考えた時、自分は地域医療を担うのが一番だと思った」という。

 

普段より介護サービスに携わり、高齢者の生活に直に触れている。高齢者がどのような時に何を必要とするか分かっている。そのため震災直後から被災地で介護職員が必要になると考え、被災地に行くことを決意した。岡山県や岡山県介護老人保健施設協会に「現地に行く」と名乗り出た。しかし、現地との調整に時間を要し、実際に派遣されたのは5月になってからだった。

 

「日本赤十字社は災害発生時に支援チームを即座に結成し、現地とも連絡を取り合い、すぐに支援に行ける。我々のような一般の医療法人はそのような『自己完結』の仕組みを持っていない。調整等に時間を要するのは仕方なかった」という。また、いざ派遣となっても、岡山での通常業務もあるため、1つのチームは7日間といった短期間しか現地に滞在できず、引継ぎ等の支障が生じた。

 

 

「本当はもっと早く現地に行きたかった」。しかし自己完結できる体制がないと迅速な行動はできない。その経験から、岡山県介護老人保健施設協会で自主的に体制づくりを始めた。支援のために誰かが1ヶ月不在となっても、他の介護事業者が県内の業務はカバーする。「施設同士が横に繋がる体制を作っておくことで、災害時に限らず、地域医療の対応力が強化される」という。

 

現地では医療施設が果たす役割の重要性も知った。滞在した大船渡にある県立大船渡病院は高台に建設されており、津波の被害から免れた。電力供給が復旧するまでの3日間、自家発電により停電にもならなかった。病院本来の役割である医療の提供のみならず避難拠点として、さらに情報収集・情報発信、ひいては生活再建の拠点となっていた。

また、老人保健施設は中学校区にひとつと、比較的細かく設けられている。「地域と合同で防災訓練を行ったり、高齢者と子どもの結びつきの拠点とならないか、地域医療だけでなく緊急時の『地域社会』の拠点にできないか、取り組んでいきたい」という。

 

米国留学の経験を踏まえ、「米国では医療が産業となってしまっているが、日本では社会保障。介護保険制度も含めて、世界的に見ても日本の医療制度は優れている。今回の震災後の対応を見ても明らかだと思う。崩してはならない。そのために医療・介護事業者も考え、工夫していかなくてはならない」と話す。

 

(取材日:2011年12月27日 ネットアクション事務局 森崎千雅)

 

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