何度も通い、携帯電話すら持ったことのない方々に、文字の打ち方や電話に出る方法をお伝えすることからはじめた

 

報道される被災地の様子を見ながら、「何かしたい」「自分に何ができるのか」、そんな想いを抱いていた方が多かったのではないだろうか。私も強くそう感じていた。そんな時、大学の掲示板で「復興支援ITボランティア」の存在を知った。当初参加するのに若干のためらいがあった。いくつもの大学の授業を欠席しなければならず、しかもボランティアから帰って来た翌日には期末試験を控えていた。しかし、今、自分がすべきことは何かを必死に考え、両親に事情を話し、導き出した私の行動は正しかったと、今では胸を張って言うことができる。

 

復興支援ITボランティアでは、学生リーダーとして十数回、被災地を訪れた。被災地のニーズに合わせて物資の提供者を募ったり、仮設住宅で住民の情報共有システムを構築したり、ITを用いて様々な形で人々を結びつける活動を行っている。IT企業各社の支援を受け、パソコン300台、プリンタ100台などを岩手県陸前高田市、大船渡市、釜石市、大槌町の避難所・仮設住宅の集会所に無償で貸与した。機器の利用をサポートするため、学生を中心としたボランティアも派遣してきた。

激変するニーズへの対応

震災の直後、被災地では圧倒的に情報が不足していた。そんな中で、インターネット環境を整えて、被災地の方々に情報を提供するとともに、被災地の状況を発信することは大きな意義があったと感じている。刻々と変化するニーズを汲み取り、迅速な対応ができたのはITのメリットを活かせたからだ。多くのIT関連企業にPCやネット環境をご提供して頂けるよう、辛抱強くご説明を続けてきた成果でもある。

大きな生活の変化

8月、被災地の方々が仮設住宅に移られると、少しずつ落ち着いてきた個々の生活の中に、いかにITを取り入れていくかが課題となった。しかも、ほとんどの方が今までに一度もPCに触れたことがない初心者だった。決して操作が容易ではなく、インターネットモラルを必要とするPCを生活の中に取り入れていくことが、果たして本当に復興のためになっているのか、そもそもこのボランティア活動を続けることに意義があるのか。自らの心に自問自答しながらの活動が続いた。

ITの先にあるもの

毎月、被災地を訪れる中で、数回にわたって訪問した仮設住宅も数多くある。その中のひとつ、陸前高田市の長洞元気村では、富士通、NTT docomoから提供して頂いた「らくらくホン」を用いて、仮設住宅内の情報共有システムを整備した。このシステムは、実際に仮設住宅での支援物資の分配や、情報伝達などに利用された。仮設住宅の代表者の方から喜びの声を聞き、この活動に大きな意義を見出すことができた。携帯電話すら持ったことのない住民の方々に、文字の打ち方や電話に出る方法等をお伝えすることからはじめた。何回も同じ仮設住宅を訪れ、住民の方々と信頼関係を築けたからこそ達成できた活動だった。

ITがつなぐ

それまで、ITというと漠然と機械的なモノという印象を持っていた。しかし、単にITという機器だけを見ていたのではなにも成し遂げることは出来ないことを、今回のボランティア活動を通して身を持って実感した。ある人のニーズがあり、それを受ける人がいる。究極的には、ITはそれらの関係を結びつけるものではないか。仮設住宅の多くの方々と私たちボランティアを結び、東北と日本全国の支援者、さらには世界の国々とを結ぶことができるITというツールに、大きな可能性を感じている。

 

被災地では、多くの企業、商店、人々が立ち上がろうとしている。被災地の方々から、自らが主体となって情報を発信したいという要望もいただいている。私たちの活動の中から、それぞれの団体のブログやFacebookがどんどん生まれている。被災地におけるIT環境の整備や人材育成など、多くの課題を克服しながら、これからも私たちの武器であるITをツールとして活用し、被災地の復興を支援していくとともに、全国各地の人々と被災地を、さらには世界と被災地を結んでいきたい。

 

(2012年3月7日 復興支援ITボランティア学生リーダー、国際基督教大学(ICU)教養学部3年 小杉卓)

※この記事は、小杉さん(写真の左から3人目)ご自身に執筆していただいたものです。

 

 

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