ITは本当に役にたったのか?

 

インターネットの普及前からパソコン通信に携わり、情報政策、インターネット・ガバナンスなどの研究・実践活動を行ってきた会津泉さん。震災直後に、救援・復興支援活動にITを効果的に利用できないかと仲間とともにiSPP(information Support pro bono Platform)を立ち上げた。

 

共同代表理事には、宮城県や仙台市と協力して東北におけるインターネットの普及活動をしてきたソフトウエア開発会社代表取締役の酒井紀之さん、阪神・淡路大震災発生時に被災状況の映像を翌日より神戸市ホームページで配信、現在仙台市・名取市等の復興支援派遣隊長を務める神戸市役所の松崎太亮さん、震災で被災した博物館・美術館 ・図書館等の被災情報を集め、必要とされる支援をコーディネートするネットワーク「saveMLAK」(横浜市中区)のプロジェクトリーダーを務めるアカデミック・リソース・ガイド株式会社代表取締役岡本真さんが名前を連ねる。

 

会津さんがなぜiSPPを立ち上げたのか。

 

仙台で生まれ、4歳10カ月まで仙台で過ごした。86年、自分の会社を設立した際のはじめてのお客様が仙台市役所だった。パソコン通信を事業化するというビジネスで、実績もない会社に仕事をまかせてくれた。当時一緒に仕事をした仲間たちの多くが被災した。名取市長は当時「コミネット仙台」というパソコン通信の熱心なユーザーだった。仲間をなんとか助けたい。自治体の情報システムが機能していないのであれば、機能させなければならない。ニーズがわかれば支援と備えに結びつく。

 

95年の阪神・淡路大震災で「インターネットは災害に強い」といわれた。その時、どこまで役に立ったのか、どういう効果があったのか。当時、会津さんは「実態や教訓を検証し、継承すべき」と切実に思った。しかしできなかった。今回は同じ悔いを残してはならない。
被災地では「何でこんなことになっているんだ!」という感覚を何度も経験した。今すぐできることだけをしたら、次に起きる問題に対処できないと思う。今から用意して2週間後に必要になることがあるのではないか。ずっと支援していくために、できることで必要なこと。場所を超えて東京でもできることは。

 

4月に被災地を回っている中でわかってきたことがある。支援する側とされる側に明らかなギャップがある。情報のギャップ。意識のギャップ。インターネットが使えるとか、使えないとか、Twitterやソーシャル・メディアが活躍した、といわれるけれど実際はどうだったのか。つながらないインターネットや携帯電話。電気がない。ガソリンがない。インターネットの優先順位は低かった。

 

iSPPでは、2011年7月に、東北三県(岩手、宮城、福島)の被災者がとった「情報行動」に関する調査を実施した。現地面談(186サンプル)とインターネット(2815サンプル)により、詳細な情報を収集し、分析・とりまとめを行った。被災した場所、発災から1週間、1カ月、3カ月、時系列に分けた上で、被災者にとって必要な情報、何が役に立ったか、立たなかったのかを切り分けてみる。

 

ITによって人の命が助かったのか。Twitterが役にたったのか。気仙沼がそうだったのか。場所、時期、被災状況によって事象は全く異なる。社会のためのシステム、行政が行う避難のための情報システムは、そういうことを考えないと。

 

2011年12月、iSPP はこれまでの調査や活動を踏まえ、総務省の「大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方について」最終取りまとめ(案)に対するパブリックコメントを発信した。
被災地で調べ抜いた被災者の言葉をデータとして、厳しくも期待を込めた6つの提案を行っている。今後発生が想定されるさまざまな災害に対して、ICTの活用により生命を救い、人的・物的・社会的被害を減少させることにつながる方策、取り組みを重視する立場だ。

 

1.被災者側の視点からの、今震災における情報通信の限界と課題の明確化
2.救命・救急、避難行動における ICT を活用したシームレスな情報伝達体制
3.「情報そのもののローミング」の実現
4.自治体の情報システムの復旧支援体制
5.震災対応活動における ICT を活用した国際協力活動・連携
6.「通信」の確保と「情報サービスの確保」の相違を踏まえた情報ニーズの明確化

 

公共施設や地域の復旧復興に寄与、あるいは支援している組織・団体に、SWハブを無償(送料を除く)提供したり、阪神淡路大震災の貴重な教訓を踏まえて開発された「ロールプレイによる実践危機管理研修」を行うなど、活動は続いている。3月には「情報行動調査」などを素材にした『3.11 被災地の証言 東日本大震災 情報行動調査で検証するデジタル大国・日本の盲点』(インプレスジャパン刊)という単行本を出版し、あくまで「被災者の主体的な情報手段が最重要だ」と主張する。

 

・情報支援プロボノ・プラットフォーム(iSPP)のホームページ

http://www.ispp.jp/

・東日本大震災 情報行動調査 「被災地3000人にお聞きしました」

http://www.ispp.jp/archives/1078

・iSPP 調査ワーキンググループ

http://www.ispp.jp/wg-ict-research

 

(取材日:2011年12月27日 ネットアクション事務局 小豆川裕子)

 

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